外国人労働者の医療の問題を考える

静岡県医師会理事 平良 章

 今朝の新聞に、外国人の治療費の未払い問題を、政府がやっと本腰を上げて検討するとの報道があり、中日新聞には私たちの運動も紹介されました。思えば昨年の6月、関東甲信越静地区衛生主管部(局)長・県医師会長合同協議会で静岡県医師会が提案し、各県の実情を報告してもらい、私が代表で厚生省、日医に対して趣旨説明という形で検討を要望してから約8カ月、やっと日の目を見ることになったかと感慨深いものがあります。

 その間、群馬県、神奈川県で相次いで県レベルの対応が発表されましたが、我が静岡県ではまだ行政の動きはなく、私たち浜松市医師会有志を中心とする民間レベルの運動だけでした。しかし、市内の殆どすべての奉仕団体が、一丸となってのこの素晴らしい盛り上がりは、他に誇って良い事だと思います。なぜ、これほど浜松で盛り上がったかというと、私たちの運動が、決して医療機関の未払い、不払いの損失補填を目的としたものではなかったからだと思います。

 すでに外国人労働者が、私たちの地域社会の一角にしっかり根を下ろしている現実を受け止め、しかもこれが一時的な現象ではなく、将来的にも増えこそすれ減ることはないだろうという見通しであるとすれば、これを排斥するのではなく、隣人として受け入れよう。そして、その彼らの医療が半数近くは自費診療であると聞けば、どうにかしてやりたいし、またエイズや結核などの感染症の予防という観点からは、逆に放置できない問題なのだということを多くの方が理解してくださったからだと思います。彼らの健康は、私たちの健康の為にも必要なことなのです。ただ博愛主義だけではなく、特に医療人としての私たちは、国籍に関係なく、私たちの地域社会に住むすべての人々に医療を施す必要があるわけで、感染症の怖さも、その予防のために何をすべきかも一般の人より良く知っています。ですから日本国内に居る期間の長短にかかわらず、日本に居る間は地域社会の一員として、すべて国民皆保険の傘のもとに入れる必要があるのだということをアピールしていきたい。

 そのためバザーの一方で、私たちは“静岡県医師会のまとめた要望事項に賛同する”という署名集めを進めて、行政に働きかけようとしているわけです。ですから、群馬県、神奈川県と今回の政府の対応は、確かに必要なことだとしても、私たちの主張とは若干異なり、すりかえになってしまわなければいいがと手放しでは喜べないものがあり、複雑な心境です。そうでなくても、未だに私たちの主張を理解していただけない方もまだまだ数多くいらっしゃるのです。

 私はそうした中で、静岡県医師会の理事が、そして浜松市医師会の理事である私が中心になってこの運動を展開していることが、行政の対応の遅れている静岡県のわずかな救いだと自分に言い聞かせて、そういう無理解に耐えて来ました。しかし、県医師会でも、私の力不足でこうした理解をいただくことができずに今年度の事業計画案から漏れ、またこうして今日の新聞報道に接すると、改めて態勢の立て直しを迫られているなあと感じています。

平成5年2月14日


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